
熊本県球磨郡多良木町の黒肥地ーー
緑いっぱいの山々が連なる風景の中に、ポツンと皆伐された山があります。
その場所を、人々は「風の杜(かぜのもり)」と呼んでいます。
熊本は約60%が森林に覆われ、県全体の水道水源の約8割が地下水100%でまかなう自然の恵みに支えられた土地。
言われてみれば、子どもの頃から水道の水をそのまま飲むのが当たり前でした。
この水も山からの贈りものだと思うと、いつまでもこの自然を守り続けていきたいと感じました。
森にできることはなんだろう
「森は守りたい」と思ったものの、私に何ができるのかと思いながら、まずは風の杜の環境整備に参加してみました。
教授や専門の先生たちを招いて、みんなで植樹をしたり土を整えたり、普段することのない体験はとても新鮮でした。
それと同時にまずはこの場所を楽しむ、自然を身近に感じることが大切 だと私の中で感じた瞬間でした。
自然と仲良くなろう
”風の杜でお餅つきをしましょう”
発案されたのは、「風の杜」の活動をいつも支えてくださっている川邉さん。
なんと北海道から、杵や臼をわざわざ持ってきてくださいました。
その熱量に、ただただ頭が下がります。
さらに今年は、杵や臼を御神輿のように担いで運べるように用意されていて、それぞれが自由なアイデアで飾りつけを楽しみました。
だれに言われたわけでもなく、気づけばそれぞれが準備を行う、みんなのお祭りが始まりました。
山に響く活気の声
素敵に飾り付けられた御神輿を、みんなで担いで山の頂上を目指しました。
「わっしょい、わっしょい!」子どもも大人も声をそろえて。
まだ餅つきは始まっていませんが、もうすでに楽しい。


御神輿担いでわっしょい!
大人も子どももぺったんぺったん
薪で蒸したもち米の香りが広がる中、ぺったんぺったんと順番に餅をつきます。
機械ではなく、人の手でつくるからこそ味わえる特別な時間。
こうやって昔ながらの道具を使って、自分の手で、体を動かして、みんなと一緒につくるお餅は、やっぱり“何かが違う”。
便利ではないけれど、心が動くひととき でした。
ああ、楽しいって、こういうことなんだな
そんな思いが、じんわりと胸に広がっていきました。


子どもも楽しい餅つきタイム
食べることの喜び
「餅つきって、“餅を食べる”というのがあくまで手段 なんですよ。餅を食べたいから、人は動く。
でも、なぜ日本の文化の中で餅つきがずっと残ってきたのかと考えると、先人たちは“その場を一緒に過ごすことの意味”を伝えたかったんじゃないかと思うんです。
それは、一度きりではわからない。何度も何度も繰り返ししていくうちに、気づかされるものが毎回あって、やめられなくなってしまった」
と川邉さんは笑いました。
「餅をつくことより、餅を食べるという“きっかけ”を通して、人が集まってくる。
一人ではできないからこそ、そこに人が関わることで、まったく違う餅になっていくんです。
“風の杜”で人がつながっていくのを見ていると、
この場所でつく餅は、どんな味になるんだろうって、ワクワクするんです。
実はね、みなさん、僕の思惑にのっかってもらってるのかもしれません(笑)」

山頂でいただく贅沢な時間
山に命を吹き込み、人と人を結ぶ。風の杜の餅つきは、そんな未来への一歩をやさしく教えてくれます。

廃材作家もへじ
川邉 聖一(かわなべ せいいち)
「いつでも、どこでも、誰とでもつながれる」一期一会の楽しさを、餅つきを通して伝えています。

風の杜
皆伐後の山の再生を見守りながら、未来につながる森の楽園づくりを目指し、自然界と人との関係性をもう一度結び直すことができたらと活動しています。